これからは社会課題を解決していく時代

大量生産型の中で生き、働いていく中で、どちらかというと企業の中で後回しにされる傾向があった社会課題の解決手法とその実践を行ってきた先生方の授業は、その内容もさることながら生き方について、考えさせられ、また今後の自分のあり方について、大切なヒントをいただきました。

私は、昭和生まれ、段階の世代ジュニアとして育ち、高専を卒業した就職時は、バブルがはじけた経済状況であったものの、依然として大量生産、効率化が良いことであるという社会通念の中で社会人生活を生きることになります。
そのしっぺ返しとして、長らくのデフレ、不景気、何となく経済が上昇しない気風、それにつられて人々の幸せもなんとなく幸せでないような。そんな雰囲気を味わってきました。

20代はエクストリームユーザーには気にも留めていません。つまり、インクルーシブデザインなど知りません。それは、時代背景を考えると当たり前の事で、大量生産型の考え方だからです。
転職し、子供が生まれ、仕事と家庭を両立させないといけない状況になっていくに従い、自分の幸せに対する考え方、自分のあり方、時間のあり方に疑問を持ち始めます。自分の存在意義を考えた時に何をすることが自分にとって最適なのか。だんだんとそれが分からなくなっています。ただがむしゃらに自分が自由にできる環境を作る。そこに没頭しているような状態です。とても変化に富み、刺激があって良いのですが、ゴールはまだ見えません。

失われた20年30年と言われながら、今大きくなった平成生まれの学生たちに、大量生産、効率化の考え方は根付かなかったようです。それは文化として、たくさん作っても意味がない社会環境、大量生産型の大企業がどんどんつぶれる。海外のイノベーティブなIT企業が台頭する。
そして、私自身も変わらなければならない時期に来ています。

インクルーシブデザインを知ることで自分の中の何が変わっていくのか。なかなか従来の考え方を変えることが難しくなっている中で、先進的な考え方の学生と、それを乗り越えてこられた先生方の話を聞き、少し変わるきっかけをつかめた気がしています。

このインクルーシブデザインの授業では、アイマスクによって目の不自由な人を疑似体験し、車椅子に乗って足の不自由な人を疑似体験し、体験をすることによって、脳を使って、それを記憶する。このサイクルを回すことが、多様性理解の第一歩。何事も体験であると。

特に、視覚を外すということの不安感は何とも言えない体験でした。
人が情報を取得するための方法の約8割が視覚と言われています。また、『目は口ほどにものを言う』というようにコミュニケーション手段の一つでもあります。
普段、私は知らず知らずのうちに、年をとって無駄に経験を積んでしまったせいで、実体験もせず、何かと頭で想像して片付けてしまっています。「これは、こういうことでしょ?」という風に。人は経験と知識がある程度備わってくると、ある知識とある経験をくっつけて新しい疑似経験を作る癖があります。それが創造につながるわけで悪い能力ではないのですが、知識と経験を積むということは永遠であり、知識と経験が充分ということもあり得ない中で、自分ではそうならないようにしているつもりでも、やはり、そうなっていますね。視覚を外してよく分かります。

実際にアイマスクによって視覚を外すと、体が動き、脳が考えます。脳の中の顕著な変化を感じることが出来ました。頭の中に3次元の空間を描こうとしていました。そして、頭に3次元空間を描くことが出来ると少し不安感が和らぎます。目が見えても見えなくても人の脳は3次元空間をベースとして行動を制御していることがよく分かります。
先生のおっしゃる通り、実際に目で見た経験がある人は、その今まで見ていた映像を使って3次元空間を描こうとします。では、元々全盲の人はどのような3次元空間を描くのでしょうか。非常に興味がわくポイントです。

先生のお話で印象に残ったのは、「出来ないことを出来ないと思わず、何か工夫する、方法を考えることによって出来るようになる。」ということです。これは、インクルーシブデザインの本質の一つではないかと思います。

出来ない(分からない)というのは簡単で、周りが出来ないと思い込むことは、相手の向上心を奪うことになる。あらためて感じます。これは、目が見えない方だけでなく、子供や老人、性別、人種など、多様な人の理解に共通して言えることではないかと思います。
そして、コミュニケーションの大切さ。先生は目が見えない代わりによくしゃべります。コミュニケーションを言葉一つで行うためです。目の情報を音声でカバーするためにしゃべる。ただ、それだけではないと感じます。

先日、新幹線乗り場で全盲の方がホームで困っているようでした。私はしばらくその人を見ていました。ただ、本当に困っていそうだったので、「お手伝いしましょうか?」思い切って声をかけてみました。「はい。自由席はどこでしょうか?」明るく臆することもなく、その方は何が困っているのかを端的に明確に私に伝えました。
言葉によるコミュニケーションのウエイトが大きければ大きいほど、端的に明確に伝えなければ伝わらないということを感じたことが印象的です。私のように、もじもじしていてはいけませんね。

目が見える場合、ある程度、目に頼るので言葉が不明瞭になることもあります。これがあれしてそれして(目でものを言っている)・・・みたいに。
ガイドは的確に何を言えば目の見えない方に正確な情報を与え、3次元空間を描いてもらえるのか。私も今回のWSで体験させてもらいましたが、うまく言葉が出てきません。訓練が必要です。

体験は経験になりますが、古い経験は美化されたり陳腐化したり、形が変わったりします。
それを考える時に、したいときに、その時に感じてみる。この感覚はすごく大事であると改めて感じました。より多面的に本質を考え抜く。
インクルーシブデザインの本質に迫っていきたいと思います。