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問題解決の基本

問題解決にあたっては、まず問題をとらえるところから始まります。
3現主義(現場、現物、現実)が基本ですね。

現場

現場で一番大事なのは、「いつもと違うことをしていなかったか?」です。

今までは大丈夫だったのに。という場合、いつもと違うことを必ずしているか、起こっています。この場合、4M(Man,Machine,Method,Material)を基本として考えます。また、環境や雰囲気も加味して、いつもと違う変化を捉えます。
・気温・湿度
・生産設備の状況・設定・調子
・雰囲気(整然か、雑然か)
などです。

現物

よくあるのが、「不良品は捨てました。」です。不良品はとにかく取っておきましょう。不良品を観察することにより得られる情報は膨大で、かつ確固たる証拠品となります。
現物をとにかく見ます。原理原則を考えてみます。何も考えずに見ます。誰かに見せます。時間を置いてからみます。

このように視点を変えて現物を見ることで、何かが見えてきます。

とことん拡大します。当てる光を変えて見ます。
化学的に見ます。有機物か無機物か。何の原子がくっついているか。酸化物か。化学変化か。単なる混合物か。
物性変化を見ます。かたいかやわらかいか。もろいか。
良品と徹底的に比較します。化学的なところから、物理的なところまで。

現実

現場、現物の状況と原理原則に基づき、不良情報が現物に転写された過程を認知していきます。

よくやりがちな間違いは、想像と現実をごちゃまぜにすることです。

人はおうちゃくなので、ある程度目処がつくと考えるのをやめ、想像で片付ける習性があります。自分は現実でものを言っているか、想像なのかをよく考えて過程を認知していきます。
もうひとつは、原理原則を意識しないために根本原因ではなく発生原因を原因ととらえることです。
上っ面の現実をとらえてしまい、発生原因の対策を実施した結果、根本原因は解決していませんから、それを基に別の発生原因で別の不良品が発生するといった事が起こります。

仮説立証から対策

さて、この3現主義から、実際の対策を実施することを考えていくことになります。現場、現物から全ての現実を捉えられ、そこからの根本原因が明確であればよいのですが、実際はなかなかそうはなりません。たいがい、情報が一部足りない状態となります。
そこで、仮説という概念が登場します。仮説を立て、それを再現させ、実証することで、根本原因がそれである。ということを証明します。ただ、この仮説、実証サイクルも実際は膨大な費用や時間が必要となる事がほとんどです。このギャップを埋め、出来る限り真実に近い仮説を立てるところが腕の見せどころであり、知識・経験・知恵に基づくセンスが問われます。

水平展開も意識します。同様の事象が他で起こらないか。を想像力を働かせて考えます。リスクがあるならそれらも手当てします。


仕様書を書く

仕様書。おろそかにしていませんか?
「紳士協定」「言わずもがな」「あうんの呼吸」良いところもありますが、「おうちゃく」をしてはいけません。

一度、仕様書を書いてみましょう。書いて文字や図で表現することでいろいろ整理できます。

まず、発注側です。
生産設備導入の目的は何か。何を要求するのか。生産設備は何を担うか。を表現するために、必然的に整理して考えます。そして、その実現にどんな問題解決が必要か。具体的な運用はどうか。を発展して考え、文書としてまとめることになります。
それを見返すと、自分たちなりのものづくりと生産設備の目的との関係が明確になってきます。これが成熟化すると、生産設備仕様や運用方法の標準化が促されます。こうした一連のサイクルにより、ものづくりにおける付加価値が創造されます。

つぎは、受注側です。
発注側の仕様書を基に、何が求られているかを細かく知れば知るほど、どんな生産設備と運用の提供が必要なのかを考えます。さらに見積精度が上がることにより、積極的コスト低減を考えます。
このように受注側も深く考えるのですから、切り口の違った改善提案が出てくるかもしれません。

こうして、互いに仕様書を基軸として生産設備、強いてはものづくりに対してよく考えるようになるのです。この様な好循環サイクルにより、生産設備を基軸としたものづくりの付加価値が向上していきます。

生産設備導入が成熟化した企業の仕様書は、数百ページにおよぶと言われます。それだけ細かい仕様書が出せるということは、標準化が進んでいる結果です。しかし、成熟化が進みすぎると形骸化、硬直化が起こり、受注側すなわち外部からの改善の声は聞き入れられにくい状態となります。
受注側から改善案を引き出し、互いに切磋琢磨する環境を作りあげるぐらいの仕様書の表現がポイントです。

このように、発注側が「標準品を頼むだけ」でもダメですし、受注側が「言われた物を作るだけ」でもダメです。
互いの知識・知恵・経験を持ちこみ、ものづくりにおける付加価値を高めなければ、次のステージに行くことはできません。

投資機会というのは、発注側も受注側も、ものづくりにおける付加価値を高める絶好の機会です。

「そんな仕様書いらないよ。リピート品だから。」と言わないでください。少しだけ改善してみてください。それによる問題解決により、互いにものづくりにおける付加価値を高めあうことが出来ます。

経験上、仕様書には以下の項目は書いた方が良いと思います。
1)構成

どの様な設備で全体ラインを構成するか。

2)目的

なぜ、この設備が要るのか。

3)能力 不良率

どの程度の能力か。不良率は。AOLは許されるのか。

4)設置場所

何階に置くかだけで、構想は変わってきます(床耐荷重)。どのように搬入するかで大きさが変わってきます。

5)資材

どの様なパッケージを使うか。取扱が難しい材料はあるかなど。

6)共通仕様

決まったボタン配置、画面仕様など。その他、標準化された仕様。

7)個別機器仕様

どの様に動くことが好ましいか。手動動作。バッファ量の程度。どの様に材料を投入するか。

8)運用シミュレート

誰がどの様にオペレートするか。

9)設備構成

全体をどう動かすか。止める順番は。非常時の止め方は。復帰運転順は?

10)具体的運用(標準化された運用)

立ち上げから運転片付けまでの手順
生産情報の取得方法
非常停止からの復帰方法
連続運転かどうか。昼休みに止める。24hr操業など。

11)関連法令・グレード

食品グレードか、医療グレードか、それ以外か

12)検収条件

設置して動けば良いのか。量産3ロット合格か。

13)支給品

発注側から何を支給するか。それは有償か。

仕様書は、契約です。全てが必ずうまくいくとも限りません。そこで判定(ジャッジ)のよりどころになるのは仕様書です。何を作らせようとしたのか、何を作ろうとしたのかが第三者に出来る仕様書があれば、判定は明確です。


レイアウトとシミュレーション

能力と大きさが決まったら、人、物の動線、設置場所を考慮した、レイアウトを考えます。そして、材料投入から生産設備を使って製造し、出来た商品を出荷するまでのシミュレーションを行います。ポイントは以下の通りです。

レイアウト
生産設備の設置場所は有限でかつ制限があります。設置場所に柱があったり、出入り口は固定されています。材料や製品はどちらから入ってどちらから出るのが効率的か、製品はライン正面から向かって右に流すか、左に流すか。通常は日本人は右利きが多いので右に流しますね。(私は左利き。。。)
また、平面と限らず、立面で考えた方が良い場合があります。大型でプラントに近いようなラインの場合、

立面を考慮したレイアウトの善し悪しが、ランニングコストに影響します。

例えば、液体商品の製造です。平面でなく立面で考え、重力をうまく使うのです。原料を上から投入して、下にさがるに従い製品が出来上がる。そうすることで、無駄な送液などのエネルギーを削減出来ます。送液管の液溜まり(デッドボリューム)を削減できます。ただ、重力ばかりに気を取られると人が上下に移動せねばならない事態が起こります。このあたりのパランスを基本設計におけるシミュレートによって決めます。
このように、自然の摂理を利用すると生産設備の構成機器が減りコスト削減、さらに構成のシンプル化による品質向上が達成出来る場合があります。

バッファ量
効率的に生産設備を回すことを考えると、各材料や消耗材のバッファ量が多ければ良いということにはなりません。生産の最初にバッファにたくさんためる作業を行ったら、その時間は設備が動いていない。言いかえれば商品が作られていないため無駄な時間になります。
通常、材料投入では、各材料投入部へ人が周回する方法がとられますが、その場合、その周回サイクルに応じた必要最小限のバッファで生産設備を動かすことを考慮します。

動線
バッチ生産は、製品を作る手順に生産設備を並べる(フローショップレイアウト)方式が一般的です。これは、人が中心で生産設備が周りにあり、人がくるっと一周すると製品が出来るようなレイアウトです。
連続生産は、上のバッファ量で述べた通り、人が周回するすなわちU字のレイアウトが良い気がしますが、実はそこに落とし穴があります。

連続生産で大切なのは生産設備を止めないことです。

製品形状によりますが、物の動線を曲げると搬送で引っかかったりするのです。そうなるとかえって稼働率が落ちます。

シミュレート
レイアウト、バッファ量、人物動線が決まったら、シミュレートを行って、人と生産設備の稼働状態を確認します。通常、「標準作業組合せ表」などを用い、人と生産設備の関係を知り、無駄な動きが互いにないか確認します。人の稼働率は、100%にしてしまったらトイレに行く時間も無くなってしまうので、通常70%程度を狙います。生産設備は理想の100%を狙います。
ここでは、

人と生産設備が付加価値を生む作業を意識すること

が、もっとも大事なポイントです。
よく分からないが、人も生産設備もよく動いているから稼働率が高いと考えてはいけません。付加価値を生む作業時間。下の図に示す主作業の割合を高くし、かつ質を上げます。その他の作業や時間は全て無駄と考えるのです。
主作業とは、「付加価値を創出する作業」です。具体的には設計情報に基づいて、材料を変形、変質、変態させるような作業で、設計情報を材料(メディア)に転写する作業とも言えます。
人でも生産設備でもこの付加価値を生む作業を意識することで、いろいろな無駄が見えてきます。
人であれば、意外とリワークや検査が多いとか、生産設備であればタクトタイムは早いのだが、その内訳がほとんど搬送だったなどです。

 

労働時間(就業時間)
実働時間(実働作業) 休憩
直接作業 間接作業
主体作業 準備・片付け
主作業 付随作業

直接作業:作業指示オーダーが出ている作業
間接作業:朝礼、教育、事務作業、清掃、手待ち、無作業
主体作業:作業指示の生産個数分繰り返す
準備・片付け:通常、作業指示オーダーで一回
主作業:付加価値を創出する(材料を変形、変質、変態させる)作業
付随作業:治具、材料の取り置き、ワーク脱着、寸法検査


安全

「安全第一」

安全を決して怠ってはいけません。
しかし、生産設備を構築する上で、安全性と運用性の両立は非常に難しい問題です。

まず、安全は本質的安全を追及します。仮に人が駆動部に接触したとしても、人への危害が発生しないような設計、例えば駆動源の馬力を落とす。過大な力が加われば切れる機械式クラッチを用いる。慣性力を小さくするために軽くする。などです。
しかし、本質的安全が実現出来ず、どうしても人への危害が避けられないリスクが存在する場合、非常停止ボタンを設置するなどの防護策を取ります。

この、非常停止後の運用をどれだけ考えているかが、安全性と運用性を両立させるポイントです。

非常停止は文字通り非常時に生産設備を停止させることです。通常、非常停止ボタンを押した際は、瞬時に生産設備を止めて人を守ります。
しかし、運用性を考えない非常停止は、非常停止後の生産設備内の仕掛かり商品を全て廃棄し、かつ復帰に時間がかかる。などといった煩雑な事態が起こります。

この様に非常停止後の復帰が煩雑であると、作業者は、非常停止を押してしまったら、復帰に多大な時間がかかる。迷惑がかかる。と考え、心理的に非常停止が押しづらくなります。これにより、防護策が働きにくくなり、安全性に対するリスクが増加してしまうのです。

通常、生産設備は、非常停止後に仕掛かり品を取りだし、設備の原点復帰をして、再度通常運転になりますが、非常停止でなりふり構わぬ位置で各稼働部品が停止していますから、原点復帰の順番を間違えると機構部が干渉したり、変なインターロックがかかったりして、復帰出来なくなることもあります。また、非常停止後の復帰直後にいろいろなタイミングが合わず、不良品が出来てしまうなどといったことも起こります。

ですので、生産設備の総合的な試運転の際に、非常停止後の運用について時間をかけて確認していきます。様々なタイミングで非常停止ボタンを押し、原点復帰、再起動を繰り返しながら、どこで押しても安全に設備が停止し、素早く復帰出来て、再起動後に不良品が出ない。そんな「気軽に押せる非常停止」を目指します。

それにより、心理的に押しやすく、生産設備を壊さず、不良品を出さない非常停止シーケンスが出来上がります。決して安直に復帰が大変だからと、非常停止ボタン押下後に生産設備をサイクル停止させることはしてはなりません。
その駆動部に人が巻き込まれているのに、サイクル動作をされたら・・・。想像もしたくありませんね。

また、非常停止ボタンの配置にを気を配ります。人と駆動部が接近する場所で、リスクが高く、人の手が届くところを想定します。いざという時に非常停止ボタンが手の届く範囲に無い。などは避けるべきです。


大きさと能力を決める

どんな物でも購入しようとするとき、大きさと能力は非常に認知しやすいので、選択に迷うことが多いのではないでしょうか。
設備投資も同じですね。「大は小」を兼ねるなどと言われていた時代もありました。時代は過ぎ、今や適材適所を超え、「小で大」を兼ね、基本設備を組み合わせる時代になってきています。
「小で大」?となるかもしれませんが、多品種少量生産から変種変量生産の時代となり、生産ライン、すなわち生産設備も時代と商品の変化に応じて常に変わっていかねばなりません。
「小で大」とは、商品のライフサイクルを考え、成長期では「小」を多く持って生産量を増加し、商品の衰退期では「小」の数を減少して生産量を減少させる。商品を変種した場合は、「小」を省力で改造していく。「大」では、多くの費用と手間が必要です。

と言いながら、企業規模であるとか、市場の大きさによって、「小で大」が適切とは限りません。企業規模が大きく、多くの市場を相手にする多角化経営の場合、様々な事業を組み合わせて、戦略的に設備を回すことも可能でしょう。「小で大」も全体最適の一環として、生産設備戦略に盛り込むこともできます。

それほどの市場でない場合が最も悩ましいところです。
「小」をたくさん作るわけにはいきません。「大」を単純にいくつかの「小」に分ける場合、全体の投資金額は上がります。オペレータ数も増えます。「小が大」というのは簡単ですが、結局のところ、規模の経済に左右されます。

ではそのような場合どうするか。

価格が変わらない能力レンジの最大、かつ省スペースにすること

を考えます。
「大が小を兼ねる」じゃないかと言われそうですが、省スペースというのが大きなポイントです。
省スペースにより、その設備の大きさや重量は小さくなり、

  • 誰もが簡単に移動できる。
  • 場所の制約がなく、ライン構築の障害にならない。
  • 特注設備の場合、材料費が下がり、金額が抑えられる。

などの利点があり、その後の商品の変種に対応するフレキシブルラインの構築が、容易になります。

ただ、省スペースを追及するあまり、機能を詰め込みすぎて、保守性が悪化するのは好ましくありません。
設備構想や基本設計の際に、「本当にこの生産設備に求める機能とは何か」を突き詰めて考え、時には実験を行って最小で最適な基本設計を行うことが肝要です。

いずれ、モジュール化されたいろいろな基本設備を好きに組み合わせて、目的の生産設備を実現する様な時代がくるでしょうが、それまでは欲張って能力レンジの最大、かつ省スペースを追及すべきです。


ICTと生産性向上

ITの始まりは?
生産活動において、高度なコンピュータ技術による労働の代替と考えた場合、80年代から始まった、ロボット化などがITの始まりであろうか。
そこから、OS、インターネットの登場により、コンピュータ技術がより手軽なデジタル情報化技術に発展し、1995年-98年あたり、インターネットの普及、PCの価格破壊により、世界的にIT製造業(電気機械産業)は高成長を遂げた。いわゆるITブームの始まりである。

この90年後半の日本のIT製造業も相当の高成長となった。しかし、IT利用産業すなわちIT集約度(IT投資/年間事業収入)が高い産業、および非IT産業(IT集約度が低い産業)では、日本の生産性上昇率は各国の平均を大きく下回る。

つまり、90年後半の日本はIT製造業だけが伸びており、米国やフィンランドのようにIT利用産業、および非IT産業でも生産性を向上させているIT先進国と大きく異なる。

日本とIT先進国とで何が違うのか。

ITが生産性におよぼす影響は2つのルートがある。

①1つは労働の代替効果である。

単純労働ほど、ITによって代替されやすい。

②もう1つは知識労働へのシフトである。

米国の例では、IT製造業だけでなくITを広範囲に利用している非IT産業で、①により雇用が失われるが、それと同時に知識労働の需要が増加し、全体の雇用と生産性があがる結果となっている。

どうやら日本では、この2つのルートのいずれも頑健でないようである。
現に、1995年-2012年のIT投資額は、米国に2倍以上の差※1をつけられている。

日本は、摺り合わせ生産、多能工、労働の人間化などの影響により、単純労働への細分化が出来ない結果、代替効果が獲得しづらい。かつ、人材育成、日本独特の組織型ワークスタイルの影響により知識労働へのシフトが滞っているのであろうか。

今後は、「労働の代替効果」と「知識労働へのシフト」をキーワードとして、IT投資によってどのように生産性を向上させるかをよく考える必要がある。

さらなる将来は、人工知能により知識労働自体が置き換わるとされる。そうなれば、人間が担う生産とは何なのかを考えることになる。人工知能により失われる職業も出てくるだろう。

昨今は、スマートフォンなどの手軽な情報端末をみんなが持つ時代となった。単純労働を代替するアプリケーションや、全く新しい価値を生み出すサービスがオープンな開発環境により続々と出現している。
そして、それらサービスは、誰でもすぐに手に入れることができる。このように、コミュニケーション対象は人を超え、ITツールやハードウエアともフラットにつながる。
誰もが瞬時に何とでも情報共有できる。膨大な情報にあふれる中で、人はその情報を利用し、どんな労働、すなわち生産活動に喜びを感じるのか。それを考えるヒントが知識労働である。

いずれ世界的なオープン環境とネットワーク化に基づき、人、生産設備、情報システムが互いにオープンな環境でつながり、劇的な生産性の向上が生まれる時が来る。未だ、米国や他の国でも、いまだにその領域には至っていない。これが、インダストリアル4.0などの目指すところであろう。

※1 総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成25年)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03.html

<参考書籍>
・西村清彦 峰滝和典(2004)『情報技術革新と日本経済 「ニュー・エコノミー」の幻を超えて』有斐閣 231P
・通商白書2013(HTML版)第1部 第2章 第3節 『イノベーションが生産性向上に果たす役割』

<ITとICT>
かつては、IT(Information Techology)と呼ばれたが、現在はICT(Informationand Communication Technology)のほうが一般的に用いられる。ここではITとICTは同意語として用いる。


モジュール化

モジュール、モジュール化といった言葉はよく聞きますが、直訳すると「大きなひとくくりにすること」を意味し、かなり広範囲な意味です。
ではその本質とは何でしょうか。

まず、ものづくりにおける過程を考えた場合、モジュール化対象は以下に分類することができます。

製品のモジュール化

パソコンなどが良い例です。マザーボード、CPU、ハードディスク、メモリ、電源、その他オプションを別のメーカから買ってきて、ほしいスペックになる様に組み合わせて組み付ける。特に難しい調整は要りません。電源を入れて、OSをインストールすればとりあえず使えます。
作る側は、ただ単に組み合わせているだけですが、これら部品の連結ルールがオープンで定まっているために実現できるのです。

工程・作業のモジュール化

多種製品や大量製品において、共通する一定の工程や作業が存在します。上のパソコンの例では、電源は共通で全く同じ工程であるとか、CPUはメーカは違えどピンの数は同じで、全て同じ作業であるなどが考えられます。このような共通する工程・作業を集めて1つのくくりとし、作業標準化して集中的に教育し、品質を安定させたり、流れ作業において同じ作業だけを繰り返させてミスを減らすなどを実施します。

生産設備のモジュール化

工程・作業のくくりがかなり大がかりでかつ大量、素早く、正確さが要求される場合、生産設備導入を考えることになります。
昨今の生産設備は電装系いわゆるシーケンサやセンシング技術が非常に発展しているため、製品に物理的作用を施すハードウエア以外の動きの制御や判断は、ソフトウエアが主となってきています。これにより、ハードウエアはより単純化される傾向にあり、設計工夫の結果、ハードウエアがモジュール化され、組み合わせ性が発展し、多品種対応が可能となったり、コストダウンができたりしています。
そうなってくると、ソフトのモジュール化がキーとなります。
一方、ソフト台頭で良いのか?という議論もあります。こちらを参照ください。

モジュールというものは、製品であれ、工程・作業であれ、生産設備であれ、それ単体である機能(価値)を持ちます。そして、その機能をいろいろ組み合わせていくとシステムとなり、顧客が求める機能(価値)に発展していきます。ここでポイントとなるのは、モジュールを連結する部分の決まりです。

  • 自社だけなのか(ブラックボックス化)
  • 業界標準なのか
  • グローバル標準なのか

により、作り手が取る戦術は違ってきます。当然、その市場が魅力的であるほど、新手のモジュール開発は加速し、弱肉強食の市場になります。

また、その連結ルール自体も進化していきます。どこが主導権を握るかで切磋琢磨するのです。

さて、モジュール化は最近の流行り言葉ですが、限界はあるのでしょうか。それは、そのモジュール自体が「物理限界」を超えるかどうかで決まります。
産業革命をはじめとして、人は物理限界を超えてきました。
モジュールで各機能が加速的に発展するといずれ物理限界に到達します。物理限界に到達すると、その機能をさらに上げるためには、摺り合わせによる機能達成が必要となってきます。そしていずれ誰かがその限界を超える。物理限界を超えたらまた、モジュール化が加速していく。そんな繰り返しではないでしょうか。

ムーアの法則に基づき進化した半導体は、今まさに量子力学に基づく物理限界、言いかえればモジュール化の限界を摺り合わせにより超えようとしています。超えた先にどんな世界が待っているのでしょうか。楽しみですね。

<参考書籍>
青木昌彦 安藤晴彦(2002)『モジュール化 新しい産業アーキテクチャの本質 経済産業研究所・経済政策レビュー 4』 東洋経済新報社 334P


サーボかカムか

昨今、シーケンサなどのソフトウエアの台頭により、昔はカムで実施していた複雑な動きの繰り返し、超高速動作が、サーボモータに置き換わり、カムと全く同じ動きが可能となるソフトが出現しています。
私も設備導入をしていく中で一番迷うのは、このポイントです。確実な動き、間違えない動きを要求するときに、はたしてサーボが有効なのか?バグが起こらないのか?実際、複雑にソフトウエアで動作するサーボを用いた設備の信頼性の確保や作り込みは、地道で長いデバック作業により支えられています。
こう考えると、カムの方が物理的に明確であるため、デバックが不必要で効率的な気がしますね。ただ、ソフトウエアはプログラムですから容易に変更できて優位である背景から、サーボモータが優先的に採用されます。

それにより、カムが設計できる技術者は減っています。

どこにサーボモータを使い、どこにカムを使うか。どちらが有効か?ここが設備屋の腕の見せ所です。互いの特性を見極めて使い分けねば良い設備はできません。いわばハイブリッドですね。
経験的に、同期はメインモータで取らせて、重量部(メインコンベア)などをカムで駆動し、バリカムとかでタイミングをサーボに出してやるようなやり方が一番バグは少なくなりますかね。

メインがサーボでそのサーボのタイミングを別のサーボが取って、どこかにセンサーがあって・・・などと、ソフトウエアによるインタロックが多重になってくると、非常停止後の復帰など、イレギュラーな動きをするときに、電気屋さんが悲鳴を上げます。

成熟したカム技術と、台頭するサーボ技術。カムをサーボモータで回すようなことも面白いかもしれませんね。微妙なタイミングのずれをカムの作り替えではなく、サーボの回転速度で制御すれば、よりカムのモジュール化が進んで良いかもしれません。そうなると、バリカムのタイミングが良くわからなくなっていくのですが。

もしくは、より視覚的に接続機器の状態が分かって、バグっている個所が一目瞭然となるようなソフトウエアが登場するかもしれませんね。

サーボ、カムの長所短所

サーボ
・プログラムにより規定の動きが実現できる
・即、動きの変更が可能
・高速になると動きがずれる
・実は省エネでない
カム
・イニシャル/ランニングコストが小さい(消費電力が小さいため、モータも小さい)
・サーボに比べて電気配線工数約1/10
・見れば動きが分かる
・動きの変更が出来ない(カム作り替え)

サーボの選択

動き/スピード/ストロークを変化させる必要がある場合
→サイズチェンジ、品種変更がある

モーションコントロール(サーボ)
必ずフィードバックが入る。つまりブレーキや逆電流が入る。必然的にモータが大きくなる。
負荷やイナーシャ(慣性力)が多くなる/速度が速くなるほど、実際の動きはズレる。ズレを是正するためにモータがより大きくなる。この悪循環

サーボを使う良い例

ロールのピッチ送り
ロールの送りは、延び、滑り、ローラーの摩耗/偏芯、などにより経時により、数mmの変化がおこる。送りを多少変更したい場合が出てくる。こういった場合はサーボにより変更できる方が都合が良い。

カムを使う良い例

経時や状況により動きに変化が出ない工程
切る、折る、取る


アイディアを守る

設備投資は問題解決です。
問題解決の過程でアイディアが発生する場合もあります。

さまざまな設備メーカさんと接することが多くあります。そんな中で感じるのは、世の中の多くの生産設備は中小企業さんが担っており、その中小企業さんは各々がコア技術を持っていて、継承と進化を続けていることです。コア技術の根源をひも解いていくと、実はある中小企業さんが発祥だった。などという話があります。
なぜ、中小企業さんが多いか。小回りが利く。なんでも作ってみる、チャレンジする。価格が安い。そもそも面白い。などの理由なのでしょうね。

さて、日本の現状として、こうした中小企業さんがコア技術を持ち、設備産業を支えているのですが、彼らのアイディアというのは、マネされ放題です。
ある中小企業さんがちょっとしたアイディアを生産設備に搭載すると、それを見た別のメーカが巧みにそれをマネして、いつの間にかそのコア技術が実施できるメーカが増えるという感じです。こうして、いつの間にやらアイディアを皆で分け合っているのです。

特許を取ればいいじゃないか?

実際は、特許が取得できる技術であっても、実際に特許化して維持できないのです。また、特許侵害を発見してもそれを訴える体力もない。訴訟はお金と手間とテクニックが要ります。いちいち訴えていては会社が持ちません。
そんな背景があり、だれも自分たちのコア技術を守れない状態です。

これから先、いわゆる日本国内のマネで皆が切磋琢磨する状態ならよいのですが、世界で日本のアイディアがマネされる事態も起こっています。
どう頑張ってもこれから先、世界と競争していかざるを得ません。いろんなところで言われるように、やはり知的財産戦略を意識した設備投資というのも考えていかねばなりません。

「生産設備への投資とは」でも申し上げているように、ただ良いハードを買えばよいのではありません。その良いハードを導入する過程で必ず問題解決は存在し、その問題解決の中にアイディアが含まれます。それがコア技術であり、大切な知的財産権です。
その知的財産権をしっかり守る。もしくは、そのコア技術が誰にもマネできない。元祖の方が安くて品質が高ければ、だれもマネをしません。
いわゆる知的財産権のオープン、クローズ、基幹技術戦略をしっかり押さえるということです。

私個人的にはこれら戦略を考えて実行できるのは、中小企業さんではなく、大手機械商社さんであると考えています。豊富な資金を元に、自分たちの範疇を超えて、日本全体、そして世界に向けて、中小企業さんの知的財産権を包括的に守り、中小企業さんが安心してアイディアを発生させ、日本全体で切磋琢磨できるような状態を構築していただけたらと思います。

切磋琢磨した日本固有のアイディアを熟成させれば莫大な国益を与えます。しかし、日本は、それを登録して維持するのに膨大なお金を取ります。。。なんでもかんでも特許化では確かにそうなるでしょう。国益となりえる日本固有のアイディアをどのように発掘して守るのか。今後の日本にそれが求められていると思います。


バリデーションとは

機械加工を考えましょう。
材料を機械で削って、そのあとに既定の寸法になったかどうかを測定し、ある公差以内なら出荷し、保証する。
この場合、全ての部品を全数検査しなければ保証できないことになりますね。
測定できる場合はそれでよいとして、

あるプラスチック製品同士を超音波溶着します。この溶着が既定の強度となっているかどうかは、破壊しないと検査ができません。となると、抜き取り検査を行います。その時点でいくつかの強度不足品が出荷されるかもしれません。その時点でAQLを認めることになるのです。
製造者から言えば、1万個のうちの1つの不良かもしれません。でも、

お客様にとっては1個のうちの1つの不良。

お客様は、まぎれもなく使い物にならない不良品をつかまされます。
ものづくりを行う上で、AQLを認めたら、それはすでに一定のお客様に不良品が届くことを認めることになるのです。

しかし、これが医薬品、食品であればどうでしょうか?下手をすればその患者や使用者に多大なる危害を与えることになります。ですから、アメリカなどはFDAなどの組織を作り、どうすれば不良品を出さないものづくりが行えるかを考え続けているのです。

そんな中で出てくる概念がバリデーションです。

ものを作る過程、すなわちプロセスのばらつきをあらかじめ知り、そのばらつきの範囲が不良とされる範囲に収まっているかをあらかじめ確認します。そして、そのプロセスのばらつきが永続的に妥当な範囲に収まり続ければ、物理的に不良品が作られないという考え方です。極端な話、プロセスが充分安定していれば、無検査でもよいということです。
うまくやれば、検査代をまるまる浮かせられる効果がある考え方なのです。

しかし、それを誤ってとらえてしまっている場合がほとんどです。よくあるのは、よくわからない帳票まみれになっている状態です。ISOも同じような感じですね。