Archives: 2020年7月23日

コンピュータ化システムバリデーション(CSV)

品質(Quality)の意義とは何でしょうか。

2019年、日本の名の知れた企業からボロボロと品質不正問題が報告されました。

日本は比較的高水準の品質を維持してきたという自負があったでしょうが、なれ合い、隠ぺい、改ざん、良いとこどり。。高度経済成長で日本が作り上げた品質は、それを作り上げていた頃の緊張感を受け継ぐことなく時代が進んでいく。
今は、大量生産から変種変量、一品一様、人不足、技術伝承など状況が異なる背景も影響しているでしょう。

品質の仕組みは、QC、TQC、TQMと進化し、品質認証ではISO9001、自動車ではIATF16949などがあります。時代が進んでいけば、仕組みや認証制度は充実しているはずです。

品質の仕組みを構築し、品質認証を取得し、維持することは大変です。通常のやり方では、紙の記録まみれになり、業務が煩雑化し、現場は疲弊し、その結果、なれ合い、隠ぺい、改ざんが起こります。

『品質問題が出ました。人によるダブルチェックを行います。』は、最悪です。

コンピュータ化システムバリデーション(CSV)の誕生

こういう時代を先読みし、煩雑化、紙の記録の氾濫にいち早く反応したのが、FDAでした。

1997年8月 米国FDAは、記録書類のペーパーレスを見越して、21 CFR Part11「電子記録・電子署名に関する規制」を発行します。
ここに、コンピュータ化システムバリデーション(CSV)が誕生します。
品質を維持しながら業務効率を上げる。それは、紙の氾濫を抑えることであり、それには電子化が必須で、電子化を達成するには、コンピュータを使った仕組みの妥当性の確認が必須と考えた訳です。

21 CFR Part11 主たる要求
  • コンピュータ化システムバリデーション(CSV)されたシステムを使用すること。
  • 電子記録は、正確で、完全で、改ざん出来ないこと。
  • 記録の変更履歴(誰が、いつ、何をしたか。)は、コンピュータが自動的に操作履歴(監査証跡)を作成すること。
  • システムの開発者、使用者。維持する人は、Part11の教育を受け、経験を有すること。
  • 信頼性の高い電子署名を使用すること。

ただ、この規制の発行が早すぎました。当時のソフトウエアの力では、膨大なコストと手間がかかり、これらの規制要求が満たせませんでした。10年前でもこれを満たす仕組みが多くなく、莫大な投資が必要であったことを記憶しています。

Part11発行から、20年以上の混乱の中、GAMPを始め、CSVに関するガイダンスの発効、それに基づく解釈を経て現在に至ります。ソフトウエアの進化もあり、今は、かなり要求を満たせるようになってきました。
一方、ソフトの進化でAIの台頭など、ソフトがより複雑化し、人がロジックを理解できない状態、すなわちブラックボックス化されつつあると言われます。今、CSVの意義が試されています。

コンピュータ化システムバリデーション(CSVとは)

CSVとは、コンピュータシステムで統合された工程または作業、及びコンピュータシステムにより実現される機能を利用する業務プロセス全体の妥当性確認を示します。
コンピュータシステムバリデーションです。「」がその仕組み全体を示しています。
また、コンピュータ化システムの開発から運用、廃棄といったシステムライフサイクルにおける活動全般の妥当性確認を行うことです。

コンピュータ化システムバリデーション(CSV)の範囲

医薬品、医療機器以外のものづくりに欠けているのは、あらゆるコンピュータ化システムのCSVが実施されていないことです。
当たり前ですが、電子化で効率化する一方で、デジタルデータは仕組みが無いと簡単に改ざんできます。バグも起こります。

ものづくりを取り巻くコンピュータ化システム(例:医薬品)

電子化とCSVは必ず一対で考えねば、品質は成り立ちません。

継続した緊張感

また、品質は、仕組みも大事ですが、継続した緊張感が大切です。

医薬品、医療機器は、FDAを含めた規制当局の厳しい査察(査察がいずれ来る)による緊張感によって、様々な業界を見渡してもトップレベルの品質維持が出来ています。

様々な業界の品質問題を見るたびに、CSVの仕組みが根付いていれば、もう少しマシな結果だったのでは、と感じます。

CSVは、複雑化するコンピュータの仕組みを使いこなすための手法として、今後、様々な業界で採用されていくことになるでしょう。


技術デューデリジェンス

デューデリジェンス(DD)は、一般的に、ビジネス(事業性/収益性)、知財、法務デューデリジェンスあたりが実施されます。 販路拡大など単純な規模の拡大を目的としたM&Aは、比較的成功しやすい領域です。

しかし、昨今、中小企業の高齢化に伴い、事業承継に関連したM&A活動が活発になる一方で、事業承継求める企業の多くは、複雑な技術、いわゆる匠の技を基本としており、買い手によるその技術の理解が、複雑になればなるほど、技術の優位性が適正に評価できず、事業承継やM&Aをあきらめる状況がかなりあることも確かです。

このように、互いの技術シナジーを模索するようなM&Aの場合、売り手/買い手企業に関わる技術、またそのシナジーが市場に対してどの程度の優位性を発揮できるかにかかってきます。

1)そもそも、買い手/売り手企業が持つ技術の優位性があるのか無いのか分からない。
2)潜在的に技術優位性はあるように感じるが、すなわちそれがズバリ何なのか、論理的裏付けが出来ていない。
3)技術優位性(技術DD)は確認できたが、それを将来どう生かしていいのか、シナジーのイメージがつかない。分からない。

このような状況に陥っているのではないでしょうか。


リスクコントロール

何事も「絶対に起こらない。」と言い切れない。

いまやリスクマネジメントプロセスは、品質マネジメントシステムに完全に統合するされることが望まれ、「受け入れ不可能なリスクのないこと」を目指します。
リスクの定義は、「危害の重大さと危害の発生確率の組み合わせ」です。
何事も「リスクを予想し、リスクの高い項目に関して重点管理を行う(リスク・ベースド)」これが求められています。

リスクコントロールは、すなわち、「危害の重大さを減ずる」、もしくは、「危害の発生確率を減ずる」ということです。

リスクリスクコントロールの方法は、ISO12100 JISB9700「3ステップメソッド」が明確でわかりやすいです。

「危害の重大さを減ずる」=「本質的安全設計方策」

1.本質的安全設計方策

機械自体及び/又は機械と暴露される人との間の相互作用に関する設計特性を適切に選択することで、危険源を除去するか又はリスクを低減する
危険源を除去できる唯一の機会 ⇒ 危害の重大さ/発生確率を減らせるのはここだけ

2.安全防護及び/又は付加保護方策

危険源を除去又はリスクを十分に低減することが本質的安全設計方策で実施できない場合、意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用を考慮して適切に選択した安全防護及び付加保護方策を講じることで、リスクを低減する。

3.使用上の情報

本質的安全設計方策、安全防護及び付加保護方策の採用にもかかわらず、リスクを十分に低減できない場合、使用上の情報で残留リスクが認識されなければならない。

本質的安全設計方策 ISO12100 JISB9700

1)幾何学的要因及び物理的側面の考慮
  幾何学的要因:死角の低減、すきま、鋭利、位置
  物理的側面:作動力、運動エネルギ、騒音/振動/粉塵/放射
2)機械設計に関する一般技術知識の考慮
  応力、材料、騒音/振動/粉塵/放射
3)適切な技術の選択
  防爆/発火/騒音
4)ポジティブな機械的作用の原理の適用
  稼働なものが剛体を介して他を必然的に動作させる(例:カムなど)
5)安定性に関する規定
  重心/振動/基礎/風圧/人力
6)保全性に関する規定
  接近性/取扱い/特殊工具
7)人間工学原則の遵守
  ストレス/身体構造/温熱/リズム/照明/手動/視覚
8)電気的危険源
  開閉/断路/感電
9)空圧及び液圧装置の危険源の防止
  圧力(最大/変動/増加/喪失)、漏れ/噴出/暴れ、圧縮性
10)制御システムへの本質的安全設計方策の適用
  コンピュータ化システムバリデーション
11)安全機能の故障の確率の最小化
  非対称故障モード、冗長化
12)装置の信頼性による危険源への暴露制限
13)搬入又は搬出作業の機械化及び自動化による危険源への暴露制限
14)設定(段取り)及び保全の作業位置を危険区域外とすることによる危険源への暴露制限

この「本質的安全設計方策」の概念は、独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所殿の以下ページが、非常にわかりやすいです。

https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2017/99-column-1.html

以下がその概念図です。

危険状態/暴露状態の概念
本質的安全設計方策の概念 危険状態を排除(減ずる)4つのパターン
安全防護及び/又は付加保護方策の概念

危害の発生確率は
 P1:危険状態の発生確率
 P2:危険状態が危害に至る確率⇔回避可能性
の関係で表します。
発生確率は10のべき乗、その乗数が危害の発生確率のレベルとしてあらわされている事が多いです。

リスクコントロールで一番困るのは、どうすれば「受け入れ不可能なリスクのないこと」と言えるのか。ということです。
これは、業界、社会情勢、国、常識などの影響があるため、一概に受容レベルは規定できません。

そんな中、発生確率に関して、日科技連の研究会で開発したリスクアセスメント R-Map(Risk-Map)に、発生頻度”0”の提言がされています。

https://www.meti.go.jp/product_safety/policy/riskhyouka.pdf

発生頻度”0”の目安

参考:経済産業省資料製品安全対策に係る事故リスク評価と対策の効果分析の手法に関する調査(2007年度)

10^-8に見合う部品が無い場合には、これらの部品が壊れても事故を起こさないフェールセーフ、冗長化など、制御システムの本質的安全設計を行う。