ITの始まりは?
生産活動において、高度なコンピュータ技術による労働の代替と考えた場合、80年代から始まった、ロボット化などがITの始まりであろうか。
そこから、OS、インターネットの登場により、コンピュータ技術がより手軽なデジタル情報化技術に発展し、1995年-98年あたり、インターネットの普及、PCの価格破壊により、世界的にIT製造業(電気機械産業)は高成長を遂げた。いわゆるITブームの始まりである。

この90年後半の日本のIT製造業も相当の高成長となった。しかし、IT利用産業すなわちIT集約度(IT投資/年間事業収入)が高い産業、および非IT産業(IT集約度が低い産業)では、日本の生産性上昇率は各国の平均を大きく下回る。

つまり、90年後半の日本はIT製造業だけが伸びており、米国やフィンランドのようにIT利用産業、および非IT産業でも生産性を向上させているIT先進国と大きく異なる。

日本とIT先進国とで何が違うのか。

ITが生産性におよぼす影響は2つのルートがある。

①1つは労働の代替効果である。

単純労働ほど、ITによって代替されやすい。

②もう1つは知識労働へのシフトである。

米国の例では、IT製造業だけでなくITを広範囲に利用している非IT産業で、①により雇用が失われるが、それと同時に知識労働の需要が増加し、全体の雇用と生産性があがる結果となっている。

どうやら日本では、この2つのルートのいずれも頑健でないようである。
現に、1995年-2012年のIT投資額は、米国に2倍以上の差※1をつけられている。

日本は、摺り合わせ生産、多能工、労働の人間化などの影響により、単純労働への細分化が出来ない結果、代替効果が獲得しづらい。かつ、人材育成、日本独特の組織型ワークスタイルの影響により知識労働へのシフトが滞っているのであろうか。

今後は、「労働の代替効果」と「知識労働へのシフト」をキーワードとして、IT投資によってどのように生産性を向上させるかをよく考える必要がある。

さらなる将来は、人工知能により知識労働自体が置き換わるとされる。そうなれば、人間が担う生産とは何なのかを考えることになる。人工知能により失われる職業も出てくるだろう。

昨今は、スマートフォンなどの手軽な情報端末をみんなが持つ時代となった。単純労働を代替するアプリケーションや、全く新しい価値を生み出すサービスがオープンな開発環境により続々と出現している。
そして、それらサービスは、誰でもすぐに手に入れることができる。このように、コミュニケーション対象は人を超え、ITツールやハードウエアともフラットにつながる。
誰もが瞬時に何とでも情報共有できる。膨大な情報にあふれる中で、人はその情報を利用し、どんな労働、すなわち生産活動に喜びを感じるのか。それを考えるヒントが知識労働である。

いずれ世界的なオープン環境とネットワーク化に基づき、人、生産設備、情報システムが互いにオープンな環境でつながり、劇的な生産性の向上が生まれる時が来る。未だ、米国や他の国でも、いまだにその領域には至っていない。これが、インダストリアル4.0などの目指すところであろう。

※1 総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成25年)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/link/link03.html

<参考書籍>
・西村清彦 峰滝和典(2004)『情報技術革新と日本経済 「ニュー・エコノミー」の幻を超えて』有斐閣 231P
・通商白書2013(HTML版)第1部 第2章 第3節 『イノベーションが生産性向上に果たす役割』

<ITとICT>
かつては、IT(Information Techology)と呼ばれたが、現在はICT(Informationand Communication Technology)のほうが一般的に用いられる。ここではITとICTは同意語として用いる。