「知識とイノベーション」でイノベーションを起こすには、知識の創造が求められると述べました。

知識とはどの様に創造されるのでしょうか。

知識創造は2つのサイクルの相互作用により創造されると考えられます。
1つは「今」「現実」で創造する<見えるサイクル>
もうひとつは「信念」「真実」で創造する<見えないサイクル>です。

knowledge
<見えるサイクル>
「今」「現実」で創造する知識
・共同化
相互作用の「場」、共感知
・表出化
有意義な「対話すなわち共同思考」、概念知
・連結化
知識を結合する、体系知
・内面化
行動による学習、操作知

<見えないサイクル>
個人の「信念」を、人間によって「真実」へと正当化し創造する知識
・知識の移転(現象経験)
境界を越えて受け取り、自由に応用する自律性
・仮説の発見
個人の持つ暗黙知、様々な「情報」と深い考察による
・コンセプトの創造(概念化)
比喩的言語を多用する
・コンセプトの正当化
信念を正当化(認めてもらう)知識は正当化された真なる信念
・原型の構築(モデル)
因果関係を明確化、構造化する
個人間、部門間の協力を促す道具とする
・科学による真実の探求
原型構築の結果から真実を究める

これが、知識の創造する過程と考えられます。

それでは、知識の創造における日本人の強みとは何でしょうか。

日本人には神がいません(無です)。これは、大きな特性であり諸外国には無い強みです。

簡単に言い換えますと、「主客一体」を基本とした精神と言えます。

主客一体
西洋思想は主体と客体が別です。
つまり、主体は、動作・作用を他に及ぼす存在としての人間であり、行為・実践をなす当のもの。 客体は、行為・実践の対象となるもの。
では、人間が及ぼしたとは考えられない事柄、運命とか天災の主体は?これは神ということです。神は全知全能であると考えます。

日本人の思考は、人間含めたすべての一体化が重要な特徴です。
日本人は「もの」に対して、形なきものの形を見、声なきものの声を聞く精神があります。
「これぞそのものだ」「ほんものだ」「そういうものだ」「ものの気」「ものの気配」

日本語の「もの」という言葉は、物体や物理的存在だけを表すだけでなく、多様でかつ、独特の深みを持っています。
例えば、さくらが咲いて散る。さくらが咲いて、物的な存在としている背後に、いずれ散り、消えてなくなる「消滅」という宿命が暗示されるがゆえに、そこに「もの」の独自の美を見いだし、そして、いとおしく思います。

そして、「時」とも一体化します。
西洋は過去、現在、未来を意識します。言葉の時制がはっきりしています。日本語ははっきりとした時制がなく、時間軸が固定していません。
伝統の精神。「今」を生きる私には先ほどすでに過去となった「時」が記憶として、経験として残っている。そして、将来が目の前にくる。

心身一如
日本人の知識とは、全人格の一部として獲得された知恵。間接的・抽象的知識よりも、個人的・身体的な経験を重視します。伝統や職人気質などですね。
近代の以前で長い歴史のある「武士道」。その教育で最も重視されたのは人格をはぐくむこと。思慮、知性、弁論などは重視されなかったそうで、「行動の人」であることが重要視されました。
この様な行動・実践による身体的経験を、西田幾多郎は、「純粋経験」と言いました。

『なんと美しい花だ。花を見た一瞬、アッと息をのんだ時、私は確かにある経験をしています。しかし、この時には、「私はいま桜を見ている」ということさえもできません。「きれいな花だな」と考えたりもしません。そんな認識はないのです。そこには「私」もなければ、「桜」もありません。いわば両者が融合したような経験だけがあるのです。』

ものを考えている脳が、考えている「私」について考える事ができない。「経験」を得ているときは、主体も客体も無いわけです(主客一体)。

自他統一
日本人は人間集合を有機的生命体とみなし、他人との関係において自己を表現します。現実を典型的には、自然や他者との物理的な相互作用の中にみます。

冗長性
日本の組織のもっとも著しい特徴は、情報冗長性を重視しているところです。
情報冗長性とは、情報を意図的に重複共有させることをいいます。互いの知識領域に「侵入することによる学習」をもたらします。
たとえば、階層組織外にある非公式コミュニケーションの構築を助けます。
そして、個人は組織における自分の位置を知り、個人が組織全体の方向に合うように自己を制御することを助けます。

主客一体の概念知として私が印象的なのは、「人馬一体」です。日本人の精神と見事に一致したコンセプトだと思います。
そこにいけば、「純粋経験」が出来るのではないでしょうか。

<参考書籍>
・野中郁次郎 竹内弘高 梅本勝博 (翻訳)(1996)『知識創造企業』東洋経済新報社 401P
・野中郁次郎 紺野登(2003)『知識創造の方法論―ナレッジワーカーの作法』 東洋経済新報社 292P
・佐伯啓思(2014)『西田幾多郎 無私の思想と日本人』新潮新書 256P