Archives: 2018年8月12日

イノベーションリーダーの具体像を考える

1)イノベーションリーダーの機能を阻害する要因とは?
<変化を嫌う人>
イノベーションによって、大なり小なり「変化」があります。人は本能的に変化を受け入れられません。変化に対してストレスがあります。人は本能的に安定を求めます。自らストレスの多い変化に向かっていきません。
このストレスへの耐性は、危機感をいかに感じているかによります。具体的には、危機に対するスケール感に左右されます。
スケール感
規模:自分/家族/地球人、会社法人/事業部/本部/部/課/係
時間:明日/1年後/10年後/定年まで/100年後
動機:どうあるべきか、好きか/嫌いか、課題なのか、問題なのか、自己満足か、単なる思いつきか
人にはさまざまな危機感が存在します。少なからず危機感すら無い人もいます。
<変化を嫌う組織>
横のつながり、技術分野横断、サプライチェーンにおけるすべての関係部門のつながりなどが無い、自己完結組織では、イノベーションを起こすことは難しいです。種を育てる組織と人がいないからです。
ある製品やサービスに限定した組織の集まりでは、それ以外の突飛な事(イノベーション)の発生すらしないでしょう。

2)阻害する要因を克服するにはどうすれば良いか?
<危機感の醸成>
その会社で働く人すべてが何等かの危機感を持つ必要があります。そして、その危機のスケール感の認識を合わせていきます。
<なんでもできる組織>
組織の壁を超える。何をしても良いかもしれない。それが出来る環境がある。と皆が考えられる組織編制が必要です。トップはそれを宣言する必要があります。トップの号令が無ければ、このような組織はできません。
<強力なサポータとサポート>
イノベーションの種を持つ人を見つけ、鼓舞し、強力にサポートする仕組みが必要です。
<行動変容>
最初は少しだけ変えます。変化に対する耐性を養い、危機のスケール感の認識を合わせていくためです。その後、変化を徐々に大きくしていきます。


どのようなリーダーが存在し、機能すればイノベーションの成功確率が高まると思われるか

結論、実行できるリーダー、胆識があるリーダーが存在する必要があると言える。

企業人のほとんどは、言っていることとやっていることが違う。言いっぱなしが多い。実行しない。
「実行しなくても将来は保証されている。」
「実行しなくても自分に危害はない。」
「実行しなくても世の中回っていく。」
「実行しなくても将来安泰で幸せだ。」

PDCAは流行り。
P(プラン)はする。何か形を報告せねばならないから。
D(Do,実行)は絶対しない。
「プランで満足してしまう。」
「自己完結してしまう。」
「実行して失敗するのが怖い(自分の立場が脅かされる)。」

このような、様々な心理バイアスが実行者に襲い掛かるからである。

実行とは、3現主義(現場、現物、現実)によって、現実に働きかける体系的な方法である。それはすなわち胆識であり、知識、見識の元で成り立つ。

自社にどの程度の実行力があるかを推し量り、実行できる人材と結びつけ、様々な立場の人が協調して情熱を燃やすようにし、ビジョンを明確にし、何をすべきかを考えさせる(それをやりたいのか。)。
そして、広い視野を持って、外部環境を見つめ、思い込みをせず、独立した他者の意見を傾聴し、議論し、よい質問をし、絶えずメンタルをフォローし、明確な権限を与え、責任を求める。

実行は、3現主義からの精度の高い仮説と情熱によって成り立つ。決して仮説の無い想像だけで実行してはならない。失敗するだけだ。そして、精度の高い仮説を立てるには、知識、見識とセンスが要る。

企業がイノベーションを起こすには、中から変わらねばならない。企業人の一人ひとりが、様々な心理バイアスから脱却できないといけない。安心してはいけない。情熱を燃やさねばならない。

変わる方法はトップダウンが理想である。

それが不可能であれば、アジャイル的手法を使う。小さく始めて早く成功させ、数をこなす。これを伝染させていく。

ただし、その成功を実行しない保守者に取られてはならない。大概、企業イノベーターは保守者に横取りされ、挫折する。保守者に取られない根回しとしたたかさも必要である。


デザイン思考の罠

デザイン思考を使って新しいビジネスモデルを考えるセミナーなどが増えています。
私も何度か参加させてもらい、全く知らない様々な業種の方とコミュニケーションを取りながら、何らかの道筋を探っていくプロセスはいつも有意義です。

デザイン思考のとっかかりは「発散」と「収束」です。
「発散」とは、ブレインストーミングなどを用いて思うことを出し合い、その中から考え方の軸やグループを見つけ、そこに意識を集中してさらに発想を発散させます。
「仮設を立てる」こととは異なります。「演繹」(一定の前提から論理によって必然的な結論を導き出す)でもありません。

ふつうはこれをごっちゃにします。

また悪いことに、その思考過程でいろいろなフレームワークをハメられると、発散する範囲が狭められることを経験しました。

5W1H:いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)
4P:製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、コミュニケーション(Promotion)
3C:顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)
SWOT:強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)
ファイブフォース:既存の競合、新規参入の脅威、代替品の脅威、売り手交渉力、買い手交渉力

今までの経験、知識、想い(やりたいか)をいろいろ組み合わせて、目の前の困りごと(テーマ)に向けて、頭の中のもやもやを一生懸命言葉や文字列にしようと考えています。
そこに、そのもやもやが「だれ向けですか?」と言われた瞬間、現実世界に目を向けてしまい、「不満にはならない程度の月並みな業績※」に陥っていきます。
言い換えれば、「主観」が「客観」になると言えますね。「日本人は「主客一体」を基本とした精神」なので、こういった考え方は苦手なのかもしれません。

フレームワークはあくまで「収束」させるためのツールであり、「発散」時に使用すると、出来上がったものが非常につまらないものになります。

※スマントラ ゴシャール クリストファー・A. バートレット(1999)『個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件』ダイヤモンド社 315Pより引用